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ヤスニITTを<知る>入門講座 第1回「先住民ワオラニの生活と社会変容」の報告



アマゾンと聞けば、うっそうと茂った熱帯雨林と豊かで珍しい動植物を誰もが想像することでしょう。そんな手つかずの無垢な自然のイメージに、人間の姿は出てこないかもしれません。もしもそのイメージの中に人間が出てくるとすれば、その自然と一体になって暮らし、私たちのような現代社会に暮らす人間とはまったく異なる価値観、生活習慣、言葉を持った人間に違いない・・・。私たちの多くはきっとこんな風に考えるでしょう。

では、ヤスニITTイニシアティブの舞台となるエクアドル東部のアマゾンに住む先住民族はどうなのか。今回第1回目となるヤスニITTを<知る>入門講座は、「先住民ワオラニの生活と社会変容」と題し、ワオラニ居住地域でエコツーリズムに関する調査も行ったラテンアメリカを専門とする文化人類学者の千代勇一さん(上智大学イベロアメリカ研究所準所員)をゲストに迎えてお話を聞きました。

今回の講座では、エクアドルの先住民族に関して簡単に説明していただいた後、ワオラニ族の特徴、キリスト教化や石油開発を通じた外部社会との関係、ワオラニへのエコツーリズムの影響等についてお話しいただきました。

まずは人口ですが、エクアドルの場合、1215万人の国民のうち311万人が先住民族で、そのほとんどがキチュア族(300万人)だそうです。ワオラニ族は約1300~2000人しかいません。かつてはワオラニ族の中でグループ同士の戦争が定期的に起こり、人口は500人程度に保たれていたそうです。しかしキリスト教が入ってきて戦争を禁じ、そのために人口が増えたという側面もあるそうです。

ワオラニはもともと採取狩猟民族で、移動しながら暮らし、長さ3メートルの吹き矢を主に使って動物をとって暮らしていたそうです。槍も猟に使われていましたが、槍は主に人間同士が戦う時の武器だそうです。現在では、猟にショットガンを使う人も少なくないそうです。

服を身につけず移動しながら暮らしていたワオラニも、現在は外部社会から入ってきた服を身につけ、定住して暮らし、狩猟採取よりも農業や漁労に依存する部分が大きくなっています。また、石油会社に雇われて働き現金収入に依存する人も増えているそうです。

ワオラニと外部の接触は、古くは1600年代後半にあったとされ、1875年~1925年のゴム・ブームを経て、1950年代のキリスト教化、1960年代の石油開発ブーム、1970年代以降のエコツーリズムブームと異なる目的による接触が続いてきました。

キリスト教化では、宣教師が布教しながらワオラニの定住化を進めていきました。その後にやってきた石油企業は、自然破壊と健康被害をもたらしただけでなく、彼らを労働者として雇用しました。そこからの現金収入は、ワオラニの人々の暮らしを変えました。森でとれる鳥や動物や昆虫の代わりに、鶏肉、たまご、牛乳を食べるようになりました。草ぶきの家はトタンで造られた家に変わり、伝統的な植物の代わりに医薬品が使われるようになりました。火はライターで起こし、ガスボンベを町から買ってきてコンロで調理している家もあるそうです。また、千代さんの知っているワオラニの人たちはコカコーラも大好きだそうです。このように外部からの物を取り入れ、それらに依存するようになると、物を買うための現金収入は欠かせません。物とそれを買うための現金を得るためには賃金をもらえる仕事が必要になります。それは外部への依存度を高めます。

ワオラニ族に対するキリスト教化プロセスは、1955年からプロテスタント系の夏期言語研究所(SIL)と航空伝道教会による布教活動から始まったそうです。SILは現地語を習得して文法書を作り、現地語での聖書を普及するという活動を行っていた団体です。

1956年にはワオラニとの接触を図った5人の宣教師が殺害されるという事件がありましたが、1958年にワオラニ族のダユマという女性を仲介者として初めて接触が成功しました。

石油会社の介入は、1937年にロイヤル・ダッチ・シェルが石油採掘権を獲得したところから始まりました。しかしこの時は石油探査に失敗しています。1970年代にエクアドルのアマゾンで石油ブームが起こったのは、1967年のラゴ・アグリオで油田が発見されたことがきっかけでした。当初石油開発は国家主導で行われていましたが、1980年代には民間企業(多国籍企業)による開発が進み、アマゾンの環境破壊に対する世論が高まっていきました。このような石油開発に加え、アンデス高地からアマゾン地域への入植者の増加もあってアマゾン地域に住む先住民族の危機感が高まり、先住民族による団体がいくつか生まれました。ワオラニも1990年にはエクアドルアマゾン・ワオラニ民族同盟(ONHAE)を立ち上げています。

ワオラニ居住区におけるエコツーリズムは、1976年にキチュア族と旅行会社の取り決めでナポ川近くに宿泊施設を作ったことが始まりだそうです。その後、外部社会との仲介を果たしたワオラニ女性のダユマもエコツリーリズムを始め、エクアドルの首都キトにある老舗旅行会社もワオラニのコミュニティーと契約をしてツアーを始めました。

エコツーリズムといえば、豊かな自然を見に行く、自然の中で過ごすということが売り物ですが、当初は「未開の先住民」を見に行くという趣向が多分にあったということです。どちらにしても、エコツーリズムも社会変容とは無縁ではありませんでした。観光客は外部からの人間で、その対応にはスペイン語が必要です。ワオラニでもスペイン語が話せる人が優遇され仕事の機会は増え、それによる貧富の格差が拡大しました。また、エコツーリズムの資源となるような動物がいるかどうかによって観光客の訪問が左右されます。集落の間では、その自然環境の違いによって貧富の差が拡大しました。

エコツーリズムの影響は経済面だけではありませんでした。それは、ワオラニの自然観にも影響を及ぼしているそうです。例えばアナコンダという大きなヘビ。ワオラニにとって、それは神聖な生き物でしたが、西洋人観光客にとってはジャングルのエキゾチックな生き物です。その結果、神聖だったアナコンダも、観光客への「見世物」として扱われているところさえあるそうです。

当初ワオラニは、外部の社会とは隔絶した生活を送っていました。つまり外部社会の外に存在し、接触することを拒み、あるいは接触しても外部社会とは相対する位置にいました。しかしそれがキリスト教と石油開発から大きな影響を受けるようになりました。つまりワオラニの社会変容とは、外部社会に取り込まれていくプロセスで生じている、と千代さんは説明します。定住化の促進と戦争の禁止により、人口の増加が起こったり狩猟採集生活持続が困難になったりしました。そしてワオラニの人々が石油開発で現金収入を得るようになると、その社会には現金と交換で外部から物が入ってくるようになり、ライフスタイルはますます変化し、外部への依存度は高まっていきました。

千代さんはまとめとして3つの点を指摘しました。まず、アマゾンは誰のものなのか。「人類の宝」などと私たちは言いますが、その時にそこに住む人々の視点は入っているのか、もしかするとそれはアマゾンで生きてきた人々を無視した外部社会のエゴなのかもしれない、ということです。

そして、外部から開発を押しつけられる一方で、アンチ開発も外部から押しつけられているという点。つまりそれは、自然破壊や汚染などを伴う開発だけでなく、そうした開発を否定することさえも当事者であるワオラニの頭越しで進められ、結果だけを押しつけられてしまいがちであるという指摘です。ワオラニの人々の中には石油会社の事務所へ行き、そこのセスナに便乗させてもらう人々や、町にある石油企業のオフィスへ行って薬やお菓子をねだる人々もいるそうです。今は環境破壊を引き起こす石油開発ばかりが批判されていますが、そもそもなぜワオラニの人々は定住化して生活を変え、外部社会がもたらす医薬品、食糧、嗜好品、交通手段に依存するようになったのでしょうか、彼らが望んだことだったのでしょうか、という問いでもあります。

3つ目は、ワオラニ社会と異なる外部社会と、今後ワオラニの人々はどのように接していくべきかという点です。この点からは、外部への依存あるいは従属的な関係性について整理して考えてみる必要性、参加型開発の是非、ヤスニITTイニシアティブが誰のためのプロジェクトなのかということも考えてみる必要があると指摘されました。

遠く離れた日本から見ていると、国際的な時流に沿ったマクロな見方、キャンペーンの目的に沿った視点、そして私たちが持った文化的イメージや限られた情報に沿った判断などによって物事を見ることが多いですが、今回のお話は地域で起こっている多様な変化と現実に加え、歴史的な経緯もよく分かり、なかなか単純には語れない地域開発の状況と先住民族の「あるべき」暮らしについても考えさせられました。

当日は15名ほどの方々が参加しました。お子さんがエクアドル留学中でたまたまネット検索でこの講演会を知ったというご夫婦や、社会学や文化人類学を勉強中の学生さん、先住民族NGOのスタッフなど、いろいろな方が参加してくれました。講演会が終わった後も、あちこちで会話の花が咲いて良い交流が持てたと思います。

次回の予定や内容は現在検討中ですので、決まり次第こちらのブログにアップします。

また、ヤスニやヤスニITTイニシアティブについて知りたい、聞きたい、こんな勉強会をしてほしいなどご意見があれば、お気軽にメールしてください。

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